院長のブログ

向精神薬の処方適正化に取り組みます。

それは本当に薬ですか?

 「薬になる」と言いますが、一般的に薬とは辛い症状を改善するなど体にとって良い作用を及ぼすもののことを言いますよね。

 ここにAという錠剤があるとします。

 Aは1日に1錠飲んだだけでは効果が出ません。適量とされる2錠から4錠飲むと60%の人に効果が見られます。しかし、8錠以上飲むと頭痛、吐き気、しびれなどの副作用が出て、12錠以上飲むと呼吸が止まり死んでしまいます。

 これは仮定の話なのですが、副作用の症状や数字を変えれば、実際に処方されている薬にも当てはまります。

 Aは一般的に薬と呼ばれますが、この話からすべての人にとって薬とは言えないことが分ります。

 健康な人が飲んでも何も変わらないので、健康な人にとってAは薬ではありません。

 病気の人が1錠だけ飲んでも何の効果も示さないので1錠だけでは薬になりません。

 病気の人が適量飲んでも、そのうちの40%の人にとっては効果がないため薬にはなりません。

 8錠以上の過量を飲んだ人に至っては、薬としての効果はなく、もはや毒物と言えます。

 つまり、薬とは、様々な条件が揃わなければ薬と呼べないわけです。

 絶対的な薬があるのではなく、相対的に薬となるのです。

 しかも、薬が薬であるための条件は結構厳しいです。

 甲子園出場のために勝ち残るくらい大変で、次々と脱落者が出ます。

 薬を薬として受け取れるのは、薬の種類と量が体質や症状にマッチした少数のエリートと言えるでしょう。

 薬として販売されている物を目の前にして、全員がそれを指差して「それは薬です」と言えるはずがないのです。

 極論を言えば薬に対して幻想を抱いている、そう思い込んでいる、思い込まされているだけかもしれません。

 ひょっとすると、薬として受け取ったはずのものが、ある人にとっては結果単なるラムネのような駄菓子、もしくは体に害を及ぼす毒物になっているかもしれないのです。

 皆さんの受け取られた薬は、きちんと皆さんにとって薬になっていますか?

 

なぜ薬漬けになってしまうのでしょう?

 そもそもなぜ薬漬けになってしまうのでしょうか。

 しばしば耳にする俗な話として、「医者が製薬会社と癒着して薬をたくさん出して儲けようとしている」というものがあります。

 昔々はいざ知らず、薬を出すほど儲かるなどと考えている精神科医に、私が働き始めてから出会ったことなどありません。

 私どもの病院もそうですが、特に療養病棟は一律の診療報酬の中に薬剤費も含まれているため、薬を使うほど収益が減ってしまいます。

 そういう観点からしても、薬をたくさん使うことにメリットはないのです。

 外来診療でも向精神薬を多剤投与すると減算されるようになりました。

 今の時代、たくさん薬を出して得なことはありません。

 じゃあなぜ?

 私は次のような理由から起こるのではないかと考えます。

 

#1.薬で精神症状のすべてが解決できる、治せないはずはないという思い込みがある

#2.薬を増やせば増やすほど治る確率が上がると信じている

#3.薬以外の治療法に関心がない、自信がない、時間が割けない

#4.薬を出して欲しいと頼まれると断れない

 

 薬理、薬物動態に関する知識が乏しいと、自分の経験や思い込みだけで治療してしまいます。#1,2

 精神病理、心の仕組みを知らずに治療すると、症状を薬で消すというような物理的な方法でしか治療できません。#3

 以上のことを習得していないと患者さんから過剰な薬を要求されても上手に断ることができません。#4

 

 現実は時代劇に出てくる越後屋と悪代官のような姿ではなく、むしろ目の前で苦しむ患者さんを何とかしてあげたいという善意や正義感のある医師ほど陥りやすい罠があるのだと思います。

 患者さんの訴える症状を取り除くことに熱心になり過ぎて、気がついたら薬がてんこ盛りになっていた、というのが大方じゃないでしょうか。

 これは医師の側だけの問題ではなく、患者さんの側にも当てはまることでもあります。

 薬を飲みさえすれば治ると信じていたり、薬がないと不安と感じてしまうことはありませんか?

 

 

 

ベゲタミン®A・B配合錠の販売が中止されます

 私が向精神薬の減薬に取り組もうと思ったきっかけの一つにこのお薬の存在があります。

  強力な鎮静、催眠作用を持っているため鎮静薬として便利だからでしょうか、最後の切り札になるからでしょうか、特に統合失調症の経過の長い患者さんに多く投与されているように思います。

 また統合失調症ではないけれど、若いのに強い不眠を訴える患者さんにも投与されているのをしばしば見かけました。

 このお薬は三種類の向精神薬の合剤で、特に問題なのはフェノバルビタールという製剤が入っていることです。

 これはてんかんの治療にも使われますが、自殺目的などで多量に服用してしまうと呼吸停止をきたして亡くなってしまう可能性が高いのです。

 さらに厄介なのが、依存・耐性が生じやすくやめにくいことです。

 10年以上前でしょうか、私の担当患者さんでも自殺目的で過量服薬された方が救急搬送され、胃洗浄をしたら100錠ほど出てきた方がいらっしゃいましたが、幸い一命は取り留めました。

 救急科の担当医師も大変だったでしょうが、私も二度とこんなことを起こしたくないと思いました。

 中にはわざわざこの薬の処方を指名する方もいらっしゃいます。

 他のものに変えようと勧めても断られることが多かったです。

 そのため出したくなくても仕方なく出すことがあったのですが、いつもこれではいけないと思っていました。

 そこであると使ってしまうから、出してしまうから、いっそのこと薬局の在庫から外してしまおう、在庫削減の第一号にしようと計画していたのですが、それよりも先に販売中止となり、強制的に中止せざるを得なくなりました。

 ただしお薬は急にやめると危険ですから、やめる時は必ず専門の医師に相談しましょう。